神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)について

2023年9月7日

神経線維腫症1型に関する情報を下記に記載しております

神経線維腫症1型とは

常染色体顕性遺伝の疾患で、指定難病の1つです。皮膚のカフェオレ斑や神経線維腫が特徴的な症候です。多くの科の医師、医療職種で連携して1人の患者さんを診療する必要があります。

カフェオレ斑や皮膚の神経線維腫以外に、発達障害、側弯症、虹彩結節など多彩な症候が出る可能性があります。脳腫瘍や叢状神経線維腫を含む腫瘍の発症にも注意する必要があります。叢状神経線維腫は生命を脅かす悪性末梢神経鞘腫瘍に悪性化することがあり、診療上注意が必要です。

3歳から18歳の小児で、症候性で手術による切除が困難な叢状神経線維腫に対しては、2022年9月にMEK阻害剤であるコセルゴが保険適用となりました。症状のない叢状神経線維腫に安易に使用することは避ける必要があります。また、悪性化している可能性がある場合も投与してはいけません。一方、症状があって手術では大きな障害がでるような叢状神経線維腫に対してはコセルゴがよい適応となります。経験のある専門医とよく相談してください。

名古屋大学医学部附属病院や慶応大学病院では、多科・多職種で神経線維腫症1型患者さんを包括的に診療しています。

神経線維腫症のパンフレット

以下をご参照ください。

神経線維腫症 1 型(レックリングハウゼン病)について

名古屋大学医学部附属病院における神経線維腫症1型診療ネットワークについて

以下をご参照ください。

名古屋大学医学部附属病院における神経線維腫症 1 型(NF1)診療ネットワークのご案内

今後、医療セミナーの開催はCOVID-19の状況を見ながら予定いたします。

神経線維腫症1型患者の叢状神経線維腫に対するMEK阻害剤であるセルメチニブ(薬剤名:コセルゴ)処方に関する提言

コセルゴは3歳から18歳の痛みや運動障害などの症状を伴い、かつ切除不能な叢状神経線維腫に保険適用となりました。しかし、処方に際しては種々の注意事項があります。関連する8学会でコセルゴ処方時に留意すべき事項を確認し、共同提言をすることといたしました。

【共同提言 賛同学会】

日本レックリングハウゼン病学会

日本形成外科学会

日本サルコーマ治療研究学会

日本小児血液・がん学会

日本小児神経学会

日本整形外科学会

日本皮膚科学会

日本臨床腫瘍学会

【背景】

神経線維腫症1型患者(NF1)に発症する叢状神経線維腫は身体の様々な部位に発生し、部位によって外見の問題、痛み、運動障害、視力障害、嚥下障害などの原因となり、患者のADL/QOLを低下させる。一方、多くの叢状神経線維腫は無症候性であり、治療介入の必要はないことが多い。

標準的治療は外科的切除であるが、完全切除が困難な症例や手術による術中の大量出血や術後合併症が問題となる症例が少なくない。

このような症例に対して長らく有効な薬剤の登場が待たれていた。MEK阻害剤であるセルメチニブ(薬剤名:コセルゴ)が国外(1)および国内の臨床試験において有効性と安全性が認められ、本邦で2022年9月26日に国内の製造販売承認を取得し、3歳-18歳の症候性で手術による切除が困難な叢状神経線維腫に対して使用できるようになった。副作用としては左室駆出率低下などの心機能障害、眼障害、下痢などの消化器症状、皮膚炎・爪周囲炎、CK上昇などが挙げられる。

叢状神経線維腫は体表近くから深部まで様々な部位に発症する。中間型腫瘍を経て悪性末梢神経鞘腫瘍に悪性化することがある(2)。NF1患者における悪性末梢神経鞘腫瘍を発症する生涯リスクが10%を超えることが報告されている(3)。悪性末梢神経鞘腫瘍に対する根治治療は手術による完全切除で、セルメチニブ単独での効果のエビデンスはなく適応はない。

したがって、セルメチニブの投与を決定する際には、叢状神経線維腫が症候性であり、標準的治療である手術が困難であることを評価し、また悪性化していないことを確認することが重要である。

【提言】

セルメチニブ(薬剤名:コセルゴ)を投与する際には

・多科による医療チームでの対応が推奨される (4)

・叢状神経線維腫が症候性であり、手術が困難であることを評価できる医師の参加が推奨される

・中間型腫瘍や悪性末梢神経鞘腫瘍に悪性転化していないかの評価ができる医師の参加が推奨される

・様々な副作用に対する知識を有し、対応可能である医師が処方することが推奨される

【文献】

(1) Gross AM, et al. Selumetinib in children with inoperable plexiform neurofibromas. N Engl J Med. 2020 Apr 9;382(15):1430-1442. doi: 10.1056/NEJMoa1912735.

(2) Miettinen MM, et al. Histopathologic evaluation of atypical neurofibromatous tumors and their transformation into malignant peripheral nerve sheath tumor in patients with neurofibromatosis 1-a consensus overview. Hum Pathol. 2017 Sep;67:1-10.

(3) Landry JP, et al. Comparison of Cancer Prevalence in Patients With Neurofibromatosis Type 1 at an Academic Cancer Center vs in the General Population From 1985 to 2020.

JAMA Netw Open. 2021 Mar 1;4(3):e210945.

(4) Hirbe AC, Gutmann DH. Neurofibromatosis type 1: a multidisciplinary approach to care.

Lancet Neurol. 2014 Aug;13(8):834-43.